第14回 

宿帳に、なぜパスポート番号が必要なのですか?

 外国のお客さま用の宿帳には国籍、入国地、入国月日、パスポート番号、署名の記載欄があります。フロントでこれを書いてもらっている時「なぜ、パスポート番号が必要なのですか」と聞かれることがあります。

 「もし、貴方が病気になって口がきけなくなったら、これだけがたよりだからです。」と答えます。でも、本当は次のことが言いたいのです。ある旅館で、夜中に酔って帰って来たお客さまが、石油ストーブを転倒させて火事になり焼死してしまいました。なかなか身元が判らず、結局、焼け跡から見つかった宿帳のパスポート番号から判明し、当人の母国から家族がやってきて遺体を引き取ったということです。さすがに、これは言えません。

 「年齢欄」にも抵抗がありました。「どうして女性が年齢を書かなければいけないの」と言われて「生年月日」に直しましたら、スムーズに書いてもらえるようになりました。

 「住所欄」に都市名しか書かない人もいます。その時には「貴方が忘れ物をした時に送れるようにフルアドレスを書いて下さい」と言います。

 前泊地、後泊地は、伝染病者が発生という不測の事態が起きた際の感染経路特定のために必ず書いてもらって下さいと保険所に言われています。

 これまで3回「伝染病にかかった外国のお客さんを発見し隔離したら、お宅に泊っていたお客さまだった」と保険所から連絡がありました。

 1回は「昨日、泊ったお客さんがコレラと判明したので、これからすぐに消毒に行くから、使った部屋をそのままにしておいて下さい」と電話がありました。やって来た白衣の保険所の人が、部屋からトイレと接触したと思われるところをすべて消毒し始めました。

 これを見て、明日、新聞に載って何日か営業停止になるのかと愕然としました。

 ところが保険所の人が、「お宅は被害者だから、出来るだけ目立たないようにします。ただし、お宅の誰かが感染していたら、今度は加害者だから公表されますよ。すぐに検便をして下さい。」と言われました。結果は、幸いにも全員陰性でほっとしました。

宿泊のお客さまの安全を守るのは私どもの役目です。そのもとになるのが宿帳ですし、お客さまとの信頼関係も、ここから始まると思います。
宿帳だけは、しっかりと書いてもらっています。

日本観光旅館連盟 日観連月報より 

  

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